最近参加した学会や研修の中で、
今回は当院の鍼灸治療でアプローチの可能性を感じた、
「子宮蠕動運動と着床」について、
少しだけ所感を述べたいと思います。
蠕動は「ぜんどう」と読みます。
この子宮の蠕動運動とは内膜のさざ波様のリズミカルな動きのことです。
月経周期中の子宮内膜の蠕動運動の変化について
月経期は、蠕動運動は徐々に増加し、その方向性は子宮底部→子宮頚部(膣の方)に向かう。
排卵期に、蠕動運動は最大となり、方向性は子宮頚部→子宮底部へ変化する。
高温期は、蠕動運動はなくなる。
このことから、月経期は月経血の排出が必要なため蠕動運動は子宮頸部の方へ、
排卵期は入ってきた精子の輸送をサポートする反対に子宮底部へと蠕動運動の方向が変化するのではないかと推測されます。
移植した胚は子宮の蠕動運動によってどこへ移動するのか?
その場に留まっていた→85%
子宮角部に移動した→10%
頚部に流出した→5%
(子宮腔外へ排出した例は、蠕動運動が有意に高い。)
また、
胚移植前の1分間の子宮蠕動運動の回数は平均で1.1〜3回。
2回未満の場合は妊娠率が高く、
3回以上の場合は顕著に妊娠率が低下、
妊娠していないグループは、妊娠しているグループに比べて、蠕動運動の頻度が有意に高い。
(新鮮胚移植、自然周期凍結胚移植、ホルモン補充凍結胚移植どの移植の場合も同じ)
筋層内筋腫があり妊娠を希望している方と、その人の蠕動運動について
筋層内筋腫があり、妊娠を希望している方を対象に、
蠕動運動の頻度が低いグループと高いグループに分けて妊娠率を比較検討した結果、
蠕動運動が低頻度の場合34%妊娠するのに対し、
高頻度で蠕動運動をする場合、妊娠率は0%であり、
子宮蠕動の関係性が考えられる。
つまり筋層内筋腫がある方で、
排卵後に異常な子宮収縮を引き起こしてしまう人は妊娠しにくいが、
逆に筋層内筋腫があっても子宮収縮を起こさない人の妊娠率は顕著な低下は見られないということであろう。
着床に関しての考察
移植までに子宮環境を良くする
着床に関して、
着床は胚のハッチング(孵化)から胚が子宮内膜に潜り込むまでの過程で成り立っています。
胚盤胞のハッチングと内膜とのやり取り→子宮腔で胚の接着部位の位置取り→内膜への接着→浸潤という流れとなります。
この接着までが主に子宮が関わる部分になり、
潜り込んでからは、
胚自体の生命力に左右されるだろうと思います。
当院で着床の鍼灸を考えた場合、
移植までに子宮環境を良くする、
つまり東洋医学的には脈・お腹を柔らかく弾力のある状態にします。
(週1回のペースでこの目標の状態になるよう治療します。
人により違いますが、数ヶ月程度かかります。)
その上で、胚盤胞移植の場合は移植直前の鍼灸を
最後の仕上げの治療としています。
最後直前に治療をするメリットは、
気持ちの面でもリラックスして臨んでいただくためです。
(心が緊張すると身体も固くなり収縮しかねません。
緊張しやすい方には特に効果的です。)
当院で行う着床鍼は、
内膜に胚が接着を助けるツボを使います。
そあらでの試み 裏メニュー
これらを踏まえ、今年に入り当院では、
何回か胚盤胞移植をしたことがあるが、うまくいかなかった方限定で、
移植の直前と直後2回の移植の鍼治療を提案しました。
まだ症例数が16例ほどなのであまり参考になりませんが、
現在のところ全員着床反応は出ました。
残念ながら全員が胎嚢確認待っできたわけではありませんが、
hcg0の方がいなかったことについては一定の手ごたえを感じました。
もっと件数が増えたときに、
どれくらいの率なのかを出していかなくてはなりません。
この治療は、移植の前は通常の通りの着床鍼灸(鍼とお灸)、
そして胚盤胞移植後の後は鍼のみでお灸は無し。
10分〜15分程度でポイントをついた治療のみ行っています。
これからも少しでも着床率が上がるには、
鍼灸では何ができるかを、
研究実践してゆきます。