「体外受精は治療であり、検査である」ということがよく言われます。
それは何故か?
本来お腹の中で行われている受精・分割を体の外で行う事によって、今まで分からない事が見えてきます。
そのため体外受精は検査としての意味合いもあると言われます。
ステップアップを決意された患者様から「今まで分からなかった事が色々見えてしまうから、体外受精が恐い」とお話しされた事があります。
それだけ体外受精によって今まで原因が分からないと言われていたことが、
はっきりと分かることが出てくるといえます。
受精障害
体外受精により判明する不妊の原因の中に「受精障害」が挙げられます。
体外受精は、卵子と精子をお腹の外で受精させます。
したがって人の目で授精しているかを直接目でみて確認することができます。
そのため、タイミング法、人工授精では決して分からない部分です。
受精障害にははっきりした定義がないようです。
狭義では『受賞障害とは受精率が0%』つまり体外受精で全く受精しない事を表します。
一方、広義に『受精率が25%以下を受精障害』と定義する論文も見られます。
一言で受精と言っても受精には多くのプロセスを経ています。
@ 子宮頸管より入った精子は約15分で卵管に到達します。
しかしこの段階では精子に受精能力はありません。
子宮・卵管を通過する過程で受精する能力を獲得します。
これを受精能獲得といいますが、獲得に5〜6時間かかります。
A 受精能を獲得した精子は透明帯という卵子の外側を囲っている膜に接着し、中を通過します。
卵子の中に入った精子は細胞質に取り込まれます。
B 細胞質に取り込まれ、卵子は活性化されこれ以上精子が入れないようになります。
これらの過程で1つでも何か問題があると受精できません。
受精障害の原因
では受精障害にはどのような原因があるのでしょうか?
受精障害の原因には大まかに
@精子由来
A卵子由来
B抗精子抗体
の3つに分けられます。
@精子由来
●乏精子症・無精子症
●精子無力症
●奇形精子症
これらは精子に受精する力がなく、卵子の透明帯を通過する事ができません。
精液検査の結果で考えると
精子濃度 500万/mL以下
運動率 運動精子数100万/mL以下
が当てはまります。
A卵子由来
●透明帯が固く精子が卵子の中に入れない
●卵子が活性化しない
●卵子が成熟しておらず受精能力がない
これらは顕微授精(ICSI)という人工的に精子を卵子の中に注入する方法により解決します。
顕微授精(ICSI)については後程詳しくお話しします。
B抗精子抗体
抗精子抗体とは精子を異物と認識してしまう事です。
抗精子抗体が精子に結合していると透明帯に結合できず、受精できません。
顕微授精(ICSI)について
ICSI=顕微授精は人工的に精子1匹を卵子の細胞質の中に注入して授精させます。
その為、受精のプロセスにある、
●精子が透明帯に接着・通過できない
●精子が卵子の細胞質に取り込まれない
以上の原因に対応できます。
また1つの卵子に1つの精子を受精させる為に多精子受精のリスクが低くなります。
受精は健康な精子が1匹いれば受精が可能です。
その為、ICSIは特に重度な男性不妊による受精障害に特に有効な治療法となります。
しかし、ICSIは高い技術が要求される治療法です。
卵子の状態、によってはICSIの操作により卵子をダメにしてしまう可能性は否めません。
その点を考慮して体外受精・ICSIを選択するかを判断しなくてはなりません。
そして培養室で精子と卵子を受精させ、受精卵を育てるのが胚培養士。
受精卵の未来は胚培養士の腕にかかっています。
その技術次第で、成長するはずの胚が止まってしまうことさえある。
それだけ病院によって胚培養士の技術には大きな差があります。
技術の高い培養士がいる病院かどうかは大きなポイントです。
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