妊活お役立ちコラム
2024/07/25
不妊治療解説
AMHが低いと妊娠できる?原因は?卵巣年齢とは。
当院では初めて来られた患者様にまずはこれまで受けられた治療についてお伺いします。
そこでホルモン値を訪ねると「卵巣年齢が高いと言われました…」
と暗い表情になる方がいらっしゃいます。
ここで患者様がお話する卵巣年齢とはAMH(抗ミューラー管ホルモン)です。
AMHは卵巣年齢と表現されることが多かったため、卵の質だと間違えやすいかもしれません。
しかし、AMHは卵の質ではなく、残りの量を問うものです。
ではどうしてAMHを測定することで卵子の在庫が分かるのでしょうか?
今回ではAMHについて解説します。
もくじ
AMH(抗ミューラー管ホルモン)とは
毎月排卵される卵子は半年以上かけてゆっくりと成長します。
卵子の小さな卵胞である原始卵胞はなんと胎児、つまり母親のお腹の中にいる頃からあります。
この原始卵胞から始まり、
前胞状卵胞→胞状卵胞→成熟卵胞
と成長し、排卵されます。
AMHは直径1mm未満で内診でも把握できない前胞状卵胞から分泌されるホルモンです。
ではこのAMHを測定すると一体何が分かるのでしょうか?
AMH検査で分かること
AMHを測ることでこれから成長する卵子がどれくらいあるか調べることができます。
つまりAMHが多く分泌されているとこれから成長する卵子がたくさんあると推測します。
そこでAMHは卵子の在庫を知る手段として測定されるようになりました。
卵子の質ではなく、残りの量を知る手段としてAMHは「卵巣機能検査」と呼ばれるようになりました。
AMHの基準値とは?
AMHが卵巣機能検査と聞くと基準値がどのようなものなのか気になる方もいらっしゃると思います。
しかしAMHは個人差が大きいため、年齢ごとに明確な基準値を設けにくいとされています。
AMHの基準値について日本産科婦人科学会では以下のように述べています。
生下時に有している原始卵胞の数は個人差が大きく、AMHは各年齢層で正規分布しないため、平均値は示されているものの正常値を設定することはできない。
出典: AMH値の解釈 | 卵巣予備能とは | 公益社団法人日本団婦人科医会
https://www.jaog.or.jp/note/(3)卵巣予備能とは?/
一方、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)2019年2月に新基準値が発表されました。
表をみると中央値が設定されているものの、基準範囲がかなり広く設定されています。
そして「AMHの測定に関する留意事項」としてAMHでは卵子の質・卵巣年齢・妊娠しやすさ・低AMHの早発閉経の断定はできないものと記されています。
- 1. AMHは卵子の質とは関連しない。
- 2. AMHの測定値は個人差が大きく、若年女性でも低い場合や高齢女性でも高い場合があり、測定値からいわゆる「卵巣年齢」の推定はできない。
- 3. 測定値と妊娠する可能性とは直接的な関連はなく、測定値から「妊娠できる可能性」を判定するのは不適切と考えられる。
- 4. 測定値が低い場合でも「閉経が早い」という断定はできない
https://uwb01.bml.co.jp/kensa/pdf/BML2019-2.pdf
出典:基準値変更のおしらせ | Information | 株式会社ビー・エム・エル
つまり卵巣年齢の基準値の設定は難しく、「自分の卵巣年齢は〇〇歳」とは断定しにくいものと言えます。
とはいえ、自分の卵子が残りどれくらいあるか把握することで
・早めにステップアップすべきか
・体外受精の誘発法
など、今後の妊活の方針を決める上で判断材料になり得ます。
AMHは上がることはない?
元々AMHは年齢とともにだんだん減少するものと考えられていました。
しかし、AMHはFSHなどのホルモンに比べて小さいものですが、周期によって変動するものだと考えられています。
日本産婦人科医会には以下のように書かれています。
AMHは、ほかの女性ホルモン、下垂体ホルモンに比べれば変動が少ないので月経周期にかかわらず測定してよいとされているが、多少の日内変動や、月経周期での変動の報告があることは認識しなければならない。
https://www.jaog.or.jp/note/(3)卵巣予備能とは?/
出典: AMH値の解釈 | 卵巣予備能とは | 日本産婦人科医会
なぜ、卵子の在庫を表すAMHは変動するのでしょうか?
こちらを理解するために再度AMHがどこから分泌されるか確認します。
AMHが分泌されるのは前胞状卵胞から。
ここでポイントとなるのは前胞状卵胞より前段階の原始卵胞の数です。
胎児の頃から存在する原始卵胞のほとんどは休眠状態です。
その中から毎月、一定数の原始卵胞は成長を再開し、選ばれた1つの卵胞から排卵されます。
この原始卵胞からいくつか再成長することをリクルートメントといいます。
リクルートメントされる原始卵胞が多ければその周期のAMHは高くなるのです。
なので、これまでAMHは年齢とともに下がっていくものと考えられていましたが月によって変動することあるのです。
もちろん、長期的にみるとAMHは徐々に減少します。
しかし、一度AMHを計測して低値だったとしてもその後AMHが増えることもあり得ます。
ちなみに、当院の患者様でAMHが上昇した方がいらっしゃいます。
34歳の時に初めてAMHを測定した時が0.9(FSHは20)。
その半年後に計測しなおしたところ、1.69(FSHは10)まで上昇し、驚かれていました。
これはJISART多施設共同研究−検討データの新基準値を参考にすると42〜43歳相当から39〜40歳相当まで上昇したことになります。
ちなみに、池袋えざきレディースクリニック・Natural ART Clinic日本橋では採卵周期にAMHを測定します。
それはその周期に発育可能な卵胞の数を予測するために検査するのです。
なお、保険適用内でのAMH検査は6か月に1回。
そのため、半年に1回以上のペースでAMH測定をする場合は自費治療となります。
AMHが低いとは?
ではAMHが低かった場合、どのようなことが考えられるのでしょうか?
これまで述べたようにAMHは卵巣年齢と称されますが、卵子の質ではなく数の問題です。
現存する卵子によって妊娠する可能性は十分あり得ます。
しかし、卵子の数が少ないと判断するため年齢が若かったとしても不妊治療の計画を早期にたてる必要があります。
低AMHの原因
AMHが低い原因としては以下のものが考えられます。
- ・加齢
- ・遺伝
- ・喫煙
- ・内分泌系疾患、自己免疫疾患
- ・放射線治療、化学療法
低AMHと早発閉経
早発閉経とは40歳より前に閉経して月経がなくなることです。
AMHは周期によって多少前後することを上記で述べましたが、低AMHの状態が続くと早発閉経のリスクは高いと考えられます。
早発閉経ははっきりした診断基準は設けられていませんが、日本産科婦人科学会雑誌54巻9号には以下のように書かれています。
病名としての早発閉経(premature ovarian failure;POF)は、一般に40歳未満の自然閉経と定義される。具体的には40歳未満で卵巣手術、癌化学療法、放射線照射などに起因しない続発性無月経で血中FSH40mlU/ml以上を呈する症例を指す。<中略>最近では、多くのPOF症例で血中FSH値が一時的に正常値に戻ることが明らかになっており、診断は必ずしも容易ではない。
readPDF.php (kyorin.co.jp)
出典: 6.早発閉経の病態と取り扱い | レクチャーシリーズーどうあるべきか21世紀の女性医療 | 日本産科婦人科学会雑誌54巻9号
つまり早発閉経かは低AMHだけで判断はできず、FSHも併せて考える必要があります。
また、FSHも一時的に変動することはあるため、何周期がみる必要があります。
低AMHと不妊治療
AMHは卵子の質ではなく残りの在庫を表しています。
そのため、低AMHで妊娠を希望していてもなかなか授からない場合は積極的なステップアップも視野に入れる必要があります。
また、AMHだけで不妊治療の方針を判断することはできず、他のホルモン値も考慮する必要があります。
高AMHなら大丈夫?
これまで低AMHに焦点をあててきましたが、高FSHはどのような状態でしょうか?
一見すると卵子の在庫がたくさんあり、良いことと思われるかもしれませんが、そうとは言えません。
AMHが高い場合、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)が疑われます。
PCOSの人は卵胞の成長が途中で止まり、たくさんの小さな卵胞が卵巣に留まっています。
PCOSの場合、自力で排卵しにくいことがありますので、治療が必要になります。
AMHとFSH
FSHは脳からでるホルモンで卵巣の機能を表す指標の1つとなります。
FSHが分泌され、卵胞が成長します。
FSHが分泌されていないと、卵胞は育ちません。
ではFSHが高いと育ちやすいのでしょうか?
そうとは言えません。
卵巣の働きが悪く、なかなか卵胞が育たないとFSHはより一層分泌されます。
つまりFSHが高いと卵巣機能が弱いことを表します。
なお、日本産科婦人科学会では月経中のFSHを3.5〜10mIU/mlとしていますが、AMHと違ってFSHは年齢別に設定されていません。
https://www.jaog.or.jp/lecture/7-月経周期と女性ホルモンのメカニズム/
出典: 下垂体ホルモンの正常値(月経中) | 月経周期と女性ホルモンのメカニズム | 日本産婦人科医会
年齢が上がると、FSHも上昇する傾向にあります。
では、AMHとFSHはどう関連して考えればいいのでしょうか?
AMHとFSHが必ずしも相関しているとは限りませんが、低AMH・高FSHだった場合は卵巣機能が低下し、残りの卵子の在庫が減っていると考えられるため、治療を急ぐ必要があります。
AMHが低くてもFSHが高い場合は卵子の在庫は多少少ないけど、卵巣機能は問題ないと予測できます。
しかし、今後卵巣機能が低下する可能性はあるため、積極的なステップアップや定期的にFSHが必要となります。
AMHと卵巣年齢について
ここまでお話したようにAMHは卵子の在庫を調べるものです。
それは分かりやすく「卵巣年齢」と表現したところ、卵子の質や妊娠しやすさと誤解を招くこととなりました。
AMHはあくまでも卵子の数を調べるため、AMHで卵子の質を調べることはできません。
なお、自然妊娠を希望している場合、AMHはさほど関係しません。
AMHは高くても低くても排卵される数は1つのため、高FSHや排卵障害などなければ妊娠率に変化がないといえます。
一方、体外受精の場合は低AMHを考慮する必要あります。
卵子の在庫が少ないため、1回の採卵で取れる数が少ない可能性があります。
その場合は低刺激の誘発法の方が合うことが予測されます。
AMHが0だと治療できない?
これまでの解説から考えるとAMHが0もしくは限りなく0に近い場合、卵子の在庫がほとんどないため妊娠は難しいのではないかと考えられます。
確かにAMHがかなり低い状態が続くことは芳しい状態ではありません。
しかし、AMHが0だったとしても、まだこれから成長する卵子が残っている可能性はあります。
当院でも36歳でAMHが0だった方が通われていました。
採卵ができなかった周期もありましたが、何度も採卵を繰り返し、最終的に妊娠・出産されました。
AMH値による治療法の選択肢
AMHは卵子の質ではなく、卵子の数を表しています。
そのため、きちんと胚ができれば妊娠率は高くても低くても変わらないとされています。
ではAMHの値により治療法はどう変わるのでしょうか?
AMHが低い場合
AMHが低い場合、採卵数が少なくなる可能性があります。
ここで卵巣刺激を弱めにして少ない数を確実に採卵するか、敢えて刺激をしっかり行いその周期の卵胞を全て採卵するかは病院のよって方針が変わります。
また、ここではAMHだけではなくFSHも関係します。
FSHが高い場合、卵巣機能が低下していることが予測されます。
なので、卵巣刺激をしても複数胚採卵できない可能性があります。
誘発法は病院によって方針が異なるので、通院している病院の方針を確かめる必要があります。
AMHが高い場合
では逆にAMHが高い場合はどのような治療になるのでしょうか?
AMHが高い場合、一度の採卵で数多くと採卵できることが予測されます。
そのため必要以上に排卵誘発をしてOHSS(卵巣過剰刺激症候群)にならないように注意する必要があります。
ですが、AMHで誘発法を決めるというより、AMHが低い時と同様、病院の方針によって高刺激にするか低刺激にするか判断が分かれることが考えられます。
AMHを高くするためのセルフケアは?
卵子の種である原始卵胞は母親のお腹にいる胎児に頃にできあがり、減る一方のためAMHを上げる手段は残念ながら存在しません。
しかし、少しでもAMHの急低下を防ぐために身体のケアがお勧めになります。
老化を防ぐためには以下のようなセルフケアが挙げられます。
- ・禁煙
- ・バランスのとれた食事
- ・適度の運動
- ・良質な睡眠
- ・サプリメント(DHEA、ビタミンD、亜鉛、オメガ-3脂肪酸など)
卵子老化のサインってある?卵子の老化が加速する原因。
卵子はこれから増えることはないため、今ある卵子の質を高めることが妊活にとって大切になります。卵子の老化について解説しています。
残っている卵子を保つために
これまで何度もお話したようにAMHは卵子の数を示すもので質とは関わりありません。
たとえ低AMHだとしても1つ良質な卵子が採卵できれば妊娠する可能性はあります。
そのため、いまある卵子の質をあげることが重要です。
ではどのような方法があるのでしょうか?
- ・血流をよくする
- ・自律神経バランスを整える
- ・バランスの良い食事
- ・良質な睡眠
- ・禁煙
自律神経が乱れているとホルモンバランスは崩れ、血流が悪いせっかく作られたホルモンはスムーズに子宮や卵巣に運ばれません。
バランスの良い食事は卵子に栄養を与え、睡眠不足はホルモンバランスを崩してしまいます。
この中でも自律神経を整え、血流を良くすることは鍼灸治療の得意分野です。
今ある卵子の質をよくする手段として鍼灸治療がお勧めになります。
妊活鍼灸についてはこちらで詳しく解説しています。
鍼灸は不妊に本当に効果はあるの?採卵や着床に対する妊活鍼灸の効果
鍼灸が妊活にいいという話を聞いたことがあると思います。ではどうして妊活にいいか鍼灸治療の効果について解説します。
33歳にして42歳の卵巣年齢と言われた患者様の事例
当院に通われていた患者様でAMHが低いことに悩まれていた方がいらっしゃいました。
当時33歳のAさんは32歳の時に計測したAMHが1.5で当時の基準値で38〜41歳程度、33歳で計測した時はAMHが0.5。
42歳以上の値と言われて悩んでいました。
また、生理3日目のFSHは周期によって波があり、最も高い時で33、普段は13〜17の値でした。
採卵はこれまで2回行っており、飲み薬に注射を2回追加する誘発法で1回の採卵で2〜3個採卵していました。
鍼灸治療を始めてから、3回目の採卵。当時通われていた病院ではこれまで通り服薬と2回の注射。そこでも3個採卵しましたが、妊娠には至りませんでした。
4回目の採卵は注射をせずに飲み薬のみで1つ採卵。
これまでは初期胚を移植していましたが、この時は病院からの提案で胚盤胞まで育てることとなりました。
結果、胚盤胞まで育ち、移植したところ無事に妊娠・出産することができました。
卵巣年齢が42歳と言われると質まで低いのではと悩んだり、採卵できる数が少ないと不安に感じたりするかもしれません。
しかし、こちらの患者様は低刺激で結果が出た症例といえます。
まとめ
AMHを卵巣年齢と表現されたために、低AMHは卵子の質が悪く妊娠しにくいものと誤解されやすくなりました。
AMHが低いからといって妊娠しにくいものではなく、毎月1つずつ排卵される自然妊娠ではAMHが低くても高くても妊娠率は変わらないとされています。
しかし、年齢が若いけど低AMHだった場合はのんびりと妊活に取り組むよりは期限を決めて積極的にステップアップを視野にいれることをお勧めします。
妊娠のしやすさが分かる検査ではありませんが、妊活の計画に参考になる検査だと考えます。
■■【妊娠しやすい身体づくりの方式と不妊鍼灸3本柱】◆◆
数万例超の臨床実績から導き出した方式
〔①不妊鍼灸3本柱×②不妊カウンセリング×③おうち妊活〕
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